君と紡いだ奇跡の半年
学外ライブへの挑戦が決まってからというもの、俺たちの練習はさらに熱を帯びていった。
「ここ、もう少しテンポ落としてもよくない?」
紗希が指でピアノを叩きながら提案する。
「いいね、それで感情乗せやすくなるかもな」
真がすぐに同意する。
「じゃあ、そこから合わせてみよう」
俺はギターを構え直し、カウントを取る。
「いち、に、さん——」
音が重なるたび、俺たちの音楽がひとつに溶けていく。
何度も繰り返し合わせていく中で、俺はふと気づいていた。
(今、すごく充実してる——前の時間軸ではここまで辿り着けなかった)
未来を知っているからこそできた準備。
それでも、予想できない新しい展開が生まれていくことが、たまらなく楽しかった。
*
ある日の放課後。
音楽室の隅で休憩していると、真がスマホ片手に声を上げた。
「おい湊、紗希! すげぇイベント見つけたぞ!」
「何?」
「市内のライブハウスが主催してる新人バンドコンテスト。アマチュアの登竜門だってさ」
「え、ガチのやつじゃん……」
紗希が驚いた声を上げる。
「ちょっとレベル高そうだけど……」
俺は一瞬だけ迷った。
(でも、俺には時間がない——今できることは全部挑戦したい)
「……出よう」
強く言い切った俺に、真と紗希が顔を見合わせ、パッと笑顔になる。
「おう! それでこそ湊だ!」
「私も……頑張る!」
目標は決まった。
(後悔のない半年に——また一歩進めた気がする)
*
その日からは怒涛の練習漬けだった。
課題曲のアレンジ、演奏の安定感、ステージングの練習……
放課後だけでは足りず、休日もスタジオを借りて練習を重ねた。
「紗希、そこのハーモニー少し上げられる?」
「うん……これくらい?」
「完璧!」
「真、そのベース、後半もうちょい抑え気味でもいいかも」
「了解!」
細かい修正を積み重ねていくたびに、曲がどんどん成長していく。
「……なんか、すげぇ良くなってるよな」
休憩中、真がしみじみ呟いた。
「ああ、今までで一番いいかもしれない」
「本番が楽しみだね!」
紗希も笑顔で言った。
自然と3人のテンションは上がっていく。
(この瞬間が——生きてるって実感するんだよな)
時計の針はどんどん進んでいく。
でも、俺の心はまったく揺らがなかった。
むしろ、限られた時間の中で何倍も濃い青春を生きている気がしていた——。