君と紡いだ奇跡の半年


 学外ライブへの挑戦が決まってからというもの、俺たちの練習はさらに熱を帯びていった。

「ここ、もう少しテンポ落としてもよくない?」

 紗希が指でピアノを叩きながら提案する。

「いいね、それで感情乗せやすくなるかもな」

 真がすぐに同意する。

「じゃあ、そこから合わせてみよう」

 俺はギターを構え直し、カウントを取る。

「いち、に、さん——」

 音が重なるたび、俺たちの音楽がひとつに溶けていく。

 何度も繰り返し合わせていく中で、俺はふと気づいていた。

(今、すごく充実してる——前の時間軸ではここまで辿り着けなかった)

 未来を知っているからこそできた準備。

 それでも、予想できない新しい展開が生まれていくことが、たまらなく楽しかった。



 ある日の放課後。

 音楽室の隅で休憩していると、真がスマホ片手に声を上げた。

「おい湊、紗希! すげぇイベント見つけたぞ!」

「何?」

「市内のライブハウスが主催してる新人バンドコンテスト。アマチュアの登竜門だってさ」

「え、ガチのやつじゃん……」

 紗希が驚いた声を上げる。

「ちょっとレベル高そうだけど……」

 俺は一瞬だけ迷った。

(でも、俺には時間がない——今できることは全部挑戦したい)

「……出よう」

 強く言い切った俺に、真と紗希が顔を見合わせ、パッと笑顔になる。

「おう! それでこそ湊だ!」

「私も……頑張る!」

 目標は決まった。

(後悔のない半年に——また一歩進めた気がする)



 その日からは怒涛の練習漬けだった。

 課題曲のアレンジ、演奏の安定感、ステージングの練習……

 放課後だけでは足りず、休日もスタジオを借りて練習を重ねた。

「紗希、そこのハーモニー少し上げられる?」

「うん……これくらい?」

「完璧!」

「真、そのベース、後半もうちょい抑え気味でもいいかも」

「了解!」

 細かい修正を積み重ねていくたびに、曲がどんどん成長していく。

「……なんか、すげぇ良くなってるよな」

 休憩中、真がしみじみ呟いた。

「ああ、今までで一番いいかもしれない」

「本番が楽しみだね!」

 紗希も笑顔で言った。

 自然と3人のテンションは上がっていく。

(この瞬間が——生きてるって実感するんだよな)

 時計の針はどんどん進んでいく。

 でも、俺の心はまったく揺らがなかった。

 むしろ、限られた時間の中で何倍も濃い青春を生きている気がしていた——。
< 8 / 24 >

この作品をシェア

pagetop