黒兎の相棒は総長でも止められない
沈む境界線
凪くんの手ではめられた
手首に絡む冷たい金属が、肌にゆっくり馴染んでいく。
カチャリ――手錠の音が、張り詰めた空気に甘く響いた。
凪くんが指先で私の手首をゆっくり撫でる。
熱くなる体に、緊張がじわじわ高まっていった。
「……もう後戻りできねぇけど」
低く、甘い声が耳元に落ちる。
「それでも、いいの?」
ドクン、ドクン――
跳ねる心臓の音が耳の奥で響く。
震える唇を噛みながらも、私は小さく頷いた。
「……だって…もう止めれないから…」
凪くんがわずかに笑った。
「素直になってきたな」
唇が首筋に落ちるたび、吐息が熱く絡んでくる。
「ん……っ」
小さく漏れた声に、自分でまた顔が熱くなる。
凪くんの手が私の顎を軽く持ち上げる。
「……力抜け」
息が震えながらも、私はゆっくり目を閉じた。
全身が彼に預けられていく。
シーツが柔らかく沈み、凪くんの体温が覆い被さってきた。
その重みが安心感と緊張を同時に連れてくる。
カチャリ――
わずかに揺れる鎖の音さえ甘く響いていた。
そのまま――
凪くんがゆっくりと私の中へ入ってきた。
身体の奥まで、深く、静かに満たされていく。
「……っ…凪、く…ん…」
苦しくて、でも甘い声が自然と漏れる。
凪くんは私の反応を見ながら、わざと低く囁いた。
「……ちゃんと受け止めろよ?」
「ん…んっ!…」
息が絡まり、吐息が重なり合っていく。
身体の奥まで染み込んでいく感覚が止まらなかった。
「お前が余計な事考えられねえくらい
……全部埋めてくから」
「……っ…」
私は目を閉じたまま、必死に凪くんの肩を掴んでいた。
溺れていくように、全部が満たされていく。
ドクン、ドクン――
重なる心臓の音。
呼吸が絡み、指先が肌をなぞり、深く深く――
私は完全に凪くんの中に溶けていった。
カチャ、と鎖がまた揺れる。
その音さえ、二人の重なりを静かに証明していくようだった。
「……もう離さねぇよ」
低く沈む声が、甘く危うく耳奥まで落ちていった。
夜はそのまま、深く深く重なり続けていった。
*
朝。
柔らかな光がカーテン越しに差し込んでくる。
私は凪くんの腕に抱かれたまま、昨夜の余韻を静かに抱えていた。
(…夢じゃなかった…)
手錠は外れていたけど、凪くんの腕はまだしっかり私を包んでいる。
私はその腕に、もう一度そっと沈んで目を閉じた。
どこにも逃げる理由なんて、もうどこにもなかった。