黒兎の相棒は総長でも止められない
第6章
朝の温度
ゆっくりと目を覚ました私は、しばらくそのまま微動だにできなかった。
昨夜の余韻がまだ体の奥にじんわり残っていて
胸の奥が静かに熱を帯びていた。
隣から聞こえてくる穏やかな寝息。
凪くんの腕は、今も私の腰を抱いたまましっかりと絡んでいる。
逃げ場なんて、やっぱり最初からなかったのかもしれない。
そっと顔を向けると、静かに眠る凪くんの寝顔。
昨夜の支配的な表情とは違う、穏やかで柔らかい顔がそこにあった。
(……寝顔、ずるいくらい静かで…)
(……でも、昨日の凪くんがすぐ頭によみがえる…)
心臓がじわじわとまた高鳴り始める。
昨夜のあの低い声も、囁きも、全部耳に残って消えない。
……そのとき。
「……もう起きてんの、バレバレ」
不意に低く、喉にかかった声が落ちた。
ビクッとして顔を戻すと、凪くんがうっすら目を開けていた。
「う…うそ…寝てたんじゃ…」
「バカ、寝たふりしてたわけねぇだろ」
口元を緩めて、凪くんが私の額に軽くキスを落とす。
「顔、赤ぇぞ。まだ昨日の続き引きずってんの?」
「~~~っ…し、してないし!」
慌てて否定する私の声が震える。
凪くんはわざとらしく少しだけ唇を近づけた。
「ふーん…ならもう一回確認してやる?」
「な、なんでそうなるの!朝だよ!?」
「関係ねぇだろ」
悪戯っぽく笑いながら、凪くんが腰に回してる腕をさらに引き寄せてきた。
「……昨日あんだけ可愛い反応しといて、今さら逃げんの?」
「~~~っ、もうやだほんとに!」
顔が熱くなりすぎて目をそらすと、凪くんが静かに笑った。
「……なあ、七星」
「…なに…」
「もう少しこうしてていいか?」
凪くんの声は低いのに、不思議と優しかった。
ドクン――とまた胸が跳ねる。
私は小さく息を吸い込みながら、顔を真っ赤にして小さく頷いた。
「……うん…」
凪くんはふっと微笑んで、今度はゆっくり優しく唇を重ねてきた。
朝の静けさの中、甘く重なるキスだけが部屋に溶けていった。