黒兎の相棒は総長でも止められない
第7章

激しい抗争

夜の空はやけに静かだった。
風もなく、月だけがやけに眩しく高い場所に浮かんでる。

 

窓の外を見つめたまま、私はじっと息を潜めていた。

胸の奥はずっとドクドクと脈打っている。

 

(凪くん…お兄ちゃん…大丈夫だよね…?)

 

手のひらはじんわり汗ばんでいた。

 

そのとき、遠くで微かに重低音が響いた。

 

(…バイクの音…?)

 

耳を澄ますと、街の奥の方からいくつものエンジン音が唸るように重なり始めた。

 

ドドド…ドォン…!

 

爆音が遠くで鳴った。
一瞬だけ地鳴りのような振動が窓ガラスを震わせる。

 

(……もう始まってる…!)

 

その瞬間、全身が一気に冷たくなった。

怖くて、震えて、でも目を離せなかった。

 

(お願い…無事でいて…)

 



 

一方――

 

人気の消えた工業地帯の裏路地。

月明かりだけが照らす中、十数台のバイクのエンジンが唸りを上げていた。

 

向かい合う二つの集団。

黒兎のメンバー達――その先頭に立つ兄、颯斗。

隣には、凪が静かに並んでいた。

 

兄の目は鋭く相手を睨み据え、凪はポケットに手を突っ込んだまま静かに全体を見渡していた。

 

「……随分集めたな」

兄が低く呟く。

 

向かいの相手集団――最大派閥の敵対グループ。
今までの小競り合いの中で最も規模が膨れ上がった”一番ヤバい夜”だった。

 

「これでケリつける気か?」

兄の問いに、向こうのリーダー格がニヤリと笑った。

 

「もう散々好き勝手やられてきたからな。そっちも腹括ってんだろ?」

 

静かな殺気がじわじわと広がっていく。

 

その横で、凪がゆっくり目を細めた。

 

「……そっちがそのつもりなら――」

「潰しきるだけだろ」

 

凪の低い声に、兄もわずかに口元を緩めた。

その瞬間――

相手側の誰かがバイクを急加速させ、前に飛び出した。

 

「行けェッ!!」

 

一気に爆発するように暴走が始まる。

鉄パイプが鈍く光り、バイクの群れが一斉に突っ込んでくる。

 

兄が短く叫んだ。

 

「やるぞ、全員構えろ!!」

 

黒兎のメンバー達も一斉に動き出す。

チェーン、鉄バット、パイプ、素手――
武器を握りしめ、爆音の中でぶつかり合いが始まった。

 

ガンッ!ガシャン!!

鈍い金属音と怒鳴り声が交差する。

地面には転倒したバイク、割れたヘルメット、倒れ込む男たち。

 

凪は真正面から飛びかかってきた相手を一撃で叩き伏せ、振り向きざまに次の奴の腹に膝をぶち込む。

 

「……邪魔だ、下がってろ」

 

その動きは冷静で鋭かった。

だが、数は圧倒的に多い。

次々に襲いかかる相手を、兄と凪は背中を合わせながら捌き続けた。

 

「まとめて来いコラァッ!!」

 

怒号と爆音、鉄と鉄がぶつかる音が響き渡る。

 

夜の静寂は――完全に裂けていた。
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