婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
その言葉に、私は思わず息をのんだ。

――冷静だ。見事な分析だった。

愛に囚われ、国の長としての務めを忘れかけた彼は、今、完全に“国王”の顔に戻っていた。

その姿は…悔しいほどに、誇らしく見えた。

「グレイブ。」

クリフの声が、低く、重く響いた。

それはもう、かつての恋に揺れる男の声ではなかった。――国王としての、覚悟に満ちた声だった。

「はっ!」

グレイブは即座に頭を下げた。

背筋を正し、まるで己の命ごと捧げるようなその姿に、私は胸が熱くなる。

「申し訳ないが、騎士団長としてベンジャミン王からこの国を守ってくれないか。」

クリフの言葉に、グレイブは拳を握りしめたまま、力強く答えた。

「かしこまりました。」

その瞬間、空気が引き締まった気がした。――戦の足音が、確かに近づいている。
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