婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
セシリーの嗚咽まじりの声が、戦の始まりを告げる緊張の空気に、かすかに揺れた。

「泣くな。」

クリフが静かに言って、セシリーをそっと抱きしめた。

鎧の隙間から、あたたかな体温が彼女に伝わったのだろう。

セシリーはしがみつくようにして、彼の胸の中で激しく泣いた。

「必ず帰ってくる。」

その一言が、どれほどの想いを込めて発せられたものか――

私はただ、遠くから見つめることしかできなかった。

「絶対によ……」

「――ああ。」

セシリーの震える声に、クリフは静かに頷いた。


その姿に、私はもう確信していた。

私は二人の間にもう入れない。

愛の形がどうであれ、彼らは今、夫婦として信頼を取り戻し始めている。

胸がじくじくと痛む。

けれど、その痛みさえもどこかで受け入れられる気がした。

私には――守りたい人がいるのだ。
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