婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
「……どうして、勝手に決めてしまったの?」

震える声で問いかけると、父――ワイズ公爵は眉ひとつ動かさず、低く言い放った。

「なぜそんなことを? だと? 一国の王子との縁談だぞ。お前のような、もう十八にもなって未婚の令嬢には、これ以上の相手など望めるものか!」

その言葉に、胸が焼けるように痛んだ。

“余った姫”――その言葉が突き刺さる。

私は物ではない、売れ残りでもない。なのに、父にとって私は“家の名誉を守るための駒”でしかなかった。

「でも、私は……私はそんな結婚、望んでいません!」

思わず叫ぶように口走った。だが父は、怒りすら見せず淡々と告げた。

「断る理由などない。王子が望んでいる。それで十分だ」

そう言って父は背を向けた。

まるで、私の意思など最初からなかったかのように。


そしてすべては、怒涛のように決まっていった。

婚礼の式は、たった一週間後に。

場所も、来賓も、式次第もすでに整っていた。

断る隙など与えられない。断ればワイズ家に泥を塗ることになると、母までが静かに言う。


ウェディングドレスまで、すでに縫製に入っているという。

真珠をあしらった純白のドレス。

私が望んだ未来のためではなく、王子の隣に立たされるための衣装。
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