婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
それからの日々は、私にとってまるで終わりの見えない迷路のようだった。

あの夜会で妹のセシリーを紹介したあの日から、クリフの態度は徐々に変わり始めていた。


はじめは気のせいかと思った。

彼は皇太子として多忙で、疲れているのだろうと。

けれど、会うたびにその様子は悪化していった。


彼が私の家を訪れる日は、かつての楽しげな空気がまるで嘘のように冷えていた。

クリフは以前のように私の手を優しく握り、ささやきのように甘い言葉をかけてくれることもなくなった。

「アーリン……」と彼が呼ぶ声は、かすれて弱々しく、私の胸は痛んだ。

けれど、その声はどこか遠く、まるで彼自身がここにいないかのように感じられた。

私が「どうしたの?」と尋ねると、クリフは深いため息をつき、答えを避けるように目を伏せた。

「何か悩みがあるなら、話してほしい」

何度も私はそう願ったけれど、彼は口を閉ざし、私の言葉は届かなかった。


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