婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
夜の帳が降りた庭園の片隅、偶然にも私は二人の姿を見つけてしまった。

クリフとセシリー。

密やかに会っているその様子は、今まで見たこともないほどに穏やかで、どこか切なげだった。


息を殺して陰に隠れながら、私は二人の話す声を聞いた。

「もう、君と会うことを秘密にしたくない。」

クリフの声は震えていた。

普段の堂々とした皇太子の面影はなく、心の奥の葛藤がにじんでいた。


セシリーは小さく息を吐きながら、「でも、あなたの婚約者はアーリンなのだから」と切なそうに答えた。

その言葉に、胸が締めつけられた。

私は誰よりも、そのアーリンなのに。

「確かにアーリンを傷つけたくない。」

クリフは続けた。

「でも、心はもう君のところにある。」

セシリーの目には涙が光り、震える声で答えた。


「私も、あなたを想っている。でも、それが間違っていると知っているから。」

二人の囁きは夜風に消え入りそうだった。

私はその場から動けず、ただただ胸の奥が苦しくなるのを感じていた。

もしや、二人は本当に愛し合っているのだろうか。

私の知らなかった真実が、こんなにも近くで紡がれていたなんて。

心が引き裂かれる思いで、その場を後にした。これ以上は聞かないと誓いながらも、頭の中で二人の言葉が繰り返された。


「君と会うことを秘密にしたくない。」

その言葉の重さが、私の未来を大きく揺るがせていた。

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