婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
クリフが重い沈黙を破ったのは、晩餐後のことだった。
婚約者として、私も呼ばれていた。
家族と近しい側近数名が集う私的な会議の場。
緊張した空気を纏いながら、クリフはゆっくりと立ち上がった。
「私は……アーリンとの婚約を破棄したいと思っています。そして、もし許されるなら、妹君――セシリーと結婚を望みます。」
部屋が凍りついた。
最初に動いたのは、父王だった。
玉座から身を乗り出し、目を見開く。
「……何を言っている?」
母后も手に持っていた杯を静かに置き、鋭い目で息子を見つめた。
「クリフ、それはどういうこと? いつの間に、そうなったの……?」
クリフは真剣な目で両親を見つめ返した。
動揺や迷いではなく、決意の光が宿っている。
「セシリーを見てから、自分の気持ちに気づきました。アーリンは素晴らしい女性です。ですが、僕は……彼女を心から愛していない。彼女に失礼であり、不誠実なまま結婚することが正しいとは思えません。」
父王は眉間に深いしわを刻んだ。
「ふざけるな。アーリンは長年、皇太子妃としてふさわしいように育てられてきた。何より、お前自身が彼女に信頼を寄せ、婚約を誇りにしてきたではないか」
「……それでも、気持ちが変わってしまったのです。もう、戻れないのです」
母后が静かにため息をつき、重々しく言葉を紡ぐ。
「クリフ、あなたは今、目の前の感情に流されているだけよ。それは愛ではなく、一時の浮ついた憧れ。アーリンを思う気持ちを、そんなふうに軽んじていいものではないわ」
「僕は……彼女を傷つけたくないからこそ、正直に話すべきだと思ったのです」
「それが誠実だと思うのなら、なおさら考え直しなさい。」
父王は厳しい声で言った。
「あの子がどれほどお前を想ってきたか、見てきたではないか。それを……妹を選ぶ? 王家の名を汚す気か」
クリフは唇を噛みしめた。
「分かっています。でも……心に嘘はつけません」
その言葉に、一瞬だけ母后の目が揺れた。
静まり返った室内。誰もすぐには口を開かなかった。
だが、確かなのはひとつ。皇太子の告白は、すべてを変えようとしていた。
そして、そのすべての渦中に、私がいる。
まっすぐに彼を想い、信じ、待ち続けていた私が。
婚約者として、私も呼ばれていた。
家族と近しい側近数名が集う私的な会議の場。
緊張した空気を纏いながら、クリフはゆっくりと立ち上がった。
「私は……アーリンとの婚約を破棄したいと思っています。そして、もし許されるなら、妹君――セシリーと結婚を望みます。」
部屋が凍りついた。
最初に動いたのは、父王だった。
玉座から身を乗り出し、目を見開く。
「……何を言っている?」
母后も手に持っていた杯を静かに置き、鋭い目で息子を見つめた。
「クリフ、それはどういうこと? いつの間に、そうなったの……?」
クリフは真剣な目で両親を見つめ返した。
動揺や迷いではなく、決意の光が宿っている。
「セシリーを見てから、自分の気持ちに気づきました。アーリンは素晴らしい女性です。ですが、僕は……彼女を心から愛していない。彼女に失礼であり、不誠実なまま結婚することが正しいとは思えません。」
父王は眉間に深いしわを刻んだ。
「ふざけるな。アーリンは長年、皇太子妃としてふさわしいように育てられてきた。何より、お前自身が彼女に信頼を寄せ、婚約を誇りにしてきたではないか」
「……それでも、気持ちが変わってしまったのです。もう、戻れないのです」
母后が静かにため息をつき、重々しく言葉を紡ぐ。
「クリフ、あなたは今、目の前の感情に流されているだけよ。それは愛ではなく、一時の浮ついた憧れ。アーリンを思う気持ちを、そんなふうに軽んじていいものではないわ」
「僕は……彼女を傷つけたくないからこそ、正直に話すべきだと思ったのです」
「それが誠実だと思うのなら、なおさら考え直しなさい。」
父王は厳しい声で言った。
「あの子がどれほどお前を想ってきたか、見てきたではないか。それを……妹を選ぶ? 王家の名を汚す気か」
クリフは唇を噛みしめた。
「分かっています。でも……心に嘘はつけません」
その言葉に、一瞬だけ母后の目が揺れた。
静まり返った室内。誰もすぐには口を開かなかった。
だが、確かなのはひとつ。皇太子の告白は、すべてを変えようとしていた。
そして、そのすべての渦中に、私がいる。
まっすぐに彼を想い、信じ、待ち続けていた私が。