婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
晩餐会の華やかな余韻がまだ残る宮殿の一室で、国王と王妃は私に向かって穏やかな声で言った。

「クリフの気持ちは、放っておけばいずれ収まるだろう。心配しすぎることはないよ、アーリン」

私はただ黙って頷いた。

国王と王妃の言葉に、どこか安心したかったのかもしれない。

けれど、その安心はまもなく崩れ去った。


それから数日後のこと。私はふとした瞬間、カーテンの陰から彼らの姿を目にしてしまった。

クリフがセシリーの自室の前で待ち伏せるように立っている。

彼の目にはためらいはなく、確かな決意が宿っていた。

セシリーが現れると、クリフは迷いなく彼女の手を取り、静かに引き寄せた。

そして、二人は唇を重ねた。


あの優しかったクリフの姿はそこにはなく、ただ情熱的に、セシリーに向ける視線が私を貫いた。

その瞬間、胸の奥から何かが音を立てて崩れ落ちた。

もう私には、彼への想いはないのだと痛感した。


涙は出なかった。

ただ、深い喪失感が静かに心を包み込んだ。

彼がもう私のものではない。

彼の心は、遠く、セシリーのもとへと向かっている。

それを目の当たりにした私は、静かにその場を離れた。

暗闇の中で、自分の感情と向き合いながら、私は新たな決意を胸に抱いたのだった。

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