婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
「アーリン!」

廊下に響いたその声を、私はたしかに聞いた。

――グレイブ……?

意識が霞んでいく中、最後の力を振り絞って、唇を動かした。

「……たすけて……」

か細い声だった。誰かに届いたかもわからない。でも、そう願わずにはいられなかった。

バンッ!

扉が勢いよく開いた音。風が入り込むように空気が変わった。

「アーリン!」

声と共に飛び込んできた人影――それは、間違いなくグレイブだった。

「よくも……!」

グレイブの怒気が部屋を震わせる。私のもとに駆け寄り、震える身体を優しく抱きしめてくれる。

「遅くなって、すまない……!もう大丈夫だ。今すぐ、ここから出るぞ。」

彼の腕の温もりに包まれて、私の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
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