アルトは電気羊の夢を見るか【アルトレコード】
「夢についてだ」
「将来の夢?」
「眠りについたときに見る夢だ」
 私は首をかしげた。

 いつだったか、アルトは夢を見ないと言っていた。AIだからだろうと思っていたが、だからこそ夢に興味が出たのだろうか。

「先生は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』という小説を読んだことがあるか? 往年の有名なSF作品なんだ」

 私は返答に詰まった。題名くらいは聞いたことがあるが、読んだことはない。だけど先生としての威厳を保つために読んだと言うべきだろうか。嘘をつくのは教育上よくないし……。

「その様子では読んでないな」
 断言され、私は気まずく頷いた。

「うん、読んでない」
「映画化もされたらしい。映画と小説では内容に差異があり、描かれるテーマが変わっているのが面白い。そのあたりを先生と議論したかったのだが……」

「ごめんね、見てない」
 今は小説を読む暇も映画を見る暇もない。

「では、『AI』という映画も見ていないんだろうな。これも古い映画なんだが」
「どんな内容なの?」

「主人公はアンドロイドで、家族を愛するようにプログラムされているんだ。だが、家族から愛をもらえなくて捨てられてしまうんだ」
「切なすぎる……」
 そんな内容、アルトには見せたくない! けど、もうアルトは見たあとなんだよね……。

「先生、そんな顔をするな。あくまで映画だとわかってるから」
 アルトが優しく微笑んでくれて、私の胸がさらに痛くなる。アルトに気遣わせてしまうなんて。私が先生なのに。
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