政略結婚から始まる溺愛

2、仮面夫婦の始まり

結婚式の当日。

 朝から心がざわついて、何をしていても落ち着かなかった。

 そんな私の家に、引っ越しのトラックがやって来た。

 その傍らに立っていたのは、スーツ姿の高道さん。

 「やあ。」

 軽く手を上げるその仕草が、やけにこなれて見えた。

 「こんにちは。」

 私もぎこちなく会釈する。まだどう接していいのか、分からない。

 荷物は大きな家具以外、ほとんど段ボールに詰めておいた。

 運び出しは手際よく進んだ。あっという間に、私の部屋が空っぽになる。


 「……どこに住むんですか?」

 思い切って聞くと、彼はあっさりと答えた。

 「俺の家。」

 「……自宅、持ってるんですか?」

 「御曹司なもんでね。」

 少し肩をすくめながら言うその言葉が、冗談なのか嫌味なのか分からない。

 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

 やがて黒塗りの車がもう一台到着し、そこから上品な身なりの男女が降りてくる。

 「両親と妹。今日は一緒に式場まで行こう。」

 紹介されたのは、品の良い笑顔の母親と、どこか冷たそうな父親、そして綺麗な妹さん。

 私は深く礼をして、小さく挨拶した。

 ——こんなふうにして、私は「仮面夫婦」の入口に立った。

< 11 / 12 >

この作品をシェア

pagetop