政略結婚から始まる溺愛
その日、私はいつものように出荷伝票をまとめていた。工場の外から、場違いなエンジン音が聞こえたのは、そのときだった。

 「……え?」

 窓の外に目をやると、見たこともない高級車が止まり、黒服の運転手が恭しくドアを開ける。降りてきた男は、いかにも“企業の偉い人”というオーラをまとっていた。

 「ごめん下さい。」

 その声に、一番最初に反応したのは母だった。

 「……っ!」

 顔色がサッと変わる。

 「……あなた、どうしてここに……!」

 驚きと怒りの混じった声。私は思わず手を止めた。

 「瞳に用がある。」

 その一言に、母は激しく動揺した。

 「今さら瞳を、あなたの都合に巻き込まないで!」

 母が声を荒げるのなんて初めて見る。私は混乱しながら立ち上がる。父が間に入り、母の肩を優しく抱いた。

 「……娘に何の用ですか。」

 父の声は低く、静かだった。けれど、はっきりとした怒りが滲んでいる。

 男は一瞬黙り、やがてはっきりと口にした。

 「……瞳の本当の父親は、私だ。」

 え……?
 何を言っているのか、理解できなかった。

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