政略結婚から始まる溺愛
 「……自分には、愛花という娘がいる。瞳の、二歳下の妹だ。」

 その言葉に、私は胸の奥がざわつくのを感じた。

 妹? 私に……妹がいる?

 言葉にできない驚きが喉に詰まりそうになる。私と違って、何不自由なく育てられた妹が。

 良平さんは続けた。

 「愛花に結婚の話が持ち上がった。相手は、大企業の御曹司だ。」


 ……政略結婚。そう思ったけれど、口には出せなかった。
 
お金持ちの世界には、よくあることだと聞いていたから。

 お見合いなんて、まだ本人の意志があるだけマシ。

 この結婚は——親が決めるもの。本人の気持ちなんて、どこにもない。


 知らないはずの妹の気持ちを思って、私は勝手に、悲しくなっていた。

 どんなふうに言われたのだろう。

 「家のためだ」とか、「お前の幸せのためだ」とか、そんな言葉で……。


 たとえ血のつながりがあってもなくても。

 愛花という女の子が、自分の気持ちを置いてけぼりにされたまま、人生を決められてしまうことが、苦しかった。

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