政略結婚から始まる溺愛
 「だが愛花は、その結婚を嫌がって……自分の恋人と駆け落ちしてしまった。」

 良平さんの言葉に、私は思わず目を見開いた。

 駆け落ち? あの“お嬢様”が?
 
だけど、不思議と責める気にはなれなかった。

 むしろ、たくましい子なんだな……と、どこかで思ってしまった自分がいた。


 けれど、その次の一言で、私の思考は一瞬にして止まった。

 「そこで問題が起こった。相手の高道君が、姉がいるのなら——姉でもいいと言ってきたんだ。」

 姉でも……いい?

 つまり、私が……妹の代わりに、結婚!?


 「そんなの、無理に決まってます!」

 即座に声が出た。知らない人との結婚なんて、ありえない。私はそういう世界の人間じゃない。

 「結原グループのためなんだ! お願いだ!」

 良平さんが必死になる姿に、父も母もすぐ間に割って入った。


 「瞳には関係ないでしょう!」

 「無理な話よ!」

 でも、彼はまったく引こうとしなかった。


 「……一度だけでも会ってくれないか。それで高道君の気が収まるのなら——」

 その姿に、私は息を詰めた。

 押しつけられるような運命には反発したい。

でも、こんなふうに誰かを困らせるのも、苦しい。

 「……一度だけ、会うのなら。」

 そう口にしたとき、自分でも、信じられないくらい心臓が速く打っていた。
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