政略結婚から始まる溺愛
高道さんは、私の言葉を一瞬黙って聞いていた。
 その静けさが余計に苦しくて、膝の上で手を握りしめる。

 「……事情ね。まあ、隠し子がどんな育ち方をしてるか、確かめに来たようなもんだ。」

 それが、面と向かって言う言葉?

 「確かめる、って……私、何か試されてるんですか?」

 思わず言葉が漏れた。すると彼は、口元だけで笑った。

 「いや、ただの確認だよ。俺と釣り合うかどうか。」

 釣り合う?
 私はアクセサリーじゃない。血のつながりで値踏みされるために来たんじゃない。

 「そういう物差しで人を見るなら、最初から私じゃ合いません。」

 静かに、でもはっきり言った。怒りというより、自分を守るための一言だった。

 彼は少しだけ目を見開いて、それから視線を落とした。

 「……思ってたより口が立つんだな。」

 それが褒め言葉なのか、皮肉なのか分からなかった。けれど——

 この人は、ただの御曹司なんかじゃない。
 簡単に人を信用しない、鋭くて、でも……どこか疲れた目をしている。

 私はまだ何も知らない。
 でも、会ってしまった。たぶん、これが始まりなんだ。

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