【シナリオ】恋も未来も、今はまだ練習中。
第10話 はじめての幕があがる
○オペレッタサークル・練習スタジオ/放課後
発表会を翌週に控え、稽古は連日続いていた。
緊張と期待が混じる中、汐梨は舞台の上で立ち位置を確認している。
榛名「汐梨ちゃん、そこもう半歩だけ左! 照明がちょうど当たる位置だから!」
汐梨「はいっ!」
喉が乾き、背中には汗。けれど、心はなぜか晴れている。
(ここが……私の舞台なんだ)
○舞台裏/夕方・休憩中
汐梨がひとり、ペットボトルの水を飲んでいると、麗奈が現れる。
麗奈「……あんた、変わったね」
汐梨「え?」
麗奈「最初は頼りなさそうな子だと思ってたけど。今はちゃんと主役してる」
汐梨は戸惑いながら、少し微笑む。
汐梨「ありがとうございます……でも、まだまだです。緊張するし、失敗も多いし……」
麗奈「ふん。けどさ、あんたにしかできない役なのかもね」
そう言い残して、麗奈はさっと立ち去る。
汐梨(……え? 今のって……励まし?)
○大学中庭・夜/帰り道
汐梨が帰ろうとしていると、美哉が追いかけてきた。
美哉「汐梨ちゃーん! 待って!」
汐梨「あ、美哉先輩……」
風が吹き、髪がふわりと揺れる。
美哉「明日、リハーサルだね。緊張してる?」
汐梨「はい……ずっとドキドキしてます」
美哉はそんな汐梨の肩に、そっと手を置いた。
美哉「大丈夫。俺がずっと見てるから。ピアノで支える。だから、怖がらなくていい」
汐梨の胸がぎゅっとなる。まるで、彼の音楽みたいな温かい言葉。
汐梨「……はい。私、頑張ります」
○ホール/リハーサル当日・午後
照明チェック、音響確認、演者の立ち位置――
すべてが本番さながらに進行される中、汐梨はステージ中央に立つ。
ライトがぱっと当たる。汐梨の表情が一変する。
汐梨(……ああ、私、今、舞台に立ってる)
後方には美哉がピアノ前に座っていて、優しく手を振る。
榛名や他の部員も見守ってくれている。
心臓はドクンドクンと早鐘のように鳴っている。
けれど、逃げたい気持ちは、どこにもない。
音楽が流れる――
汐梨は一歩、舞台を踏み出す。
○ステージ上・終盤の歌唱シーン
物語は佳境。登場人物が勇気を持って一歩踏み出すシーン。
汐梨(役だけじゃない。これは、私自身の物語でもある)
汐梨の声がホール全体に響く。
不安も、自信のなさもすべてを乗せて――
それを受け止めるように、美哉のピアノがやさしく支える。
○控室・リハーサル後
全員が拍手し、ひとまずの成功を祝っている。
榛名「お疲れ様! 本番もこの調子でいこう!」
部員たち「おつかれー!」「汐梨ちゃんすごかった!」
照れながら頭を下げる汐梨。
その後ろで、美哉が近づいてくる。
美哉「ねえ、汐梨ちゃん」
汐梨「はい?」
美哉「……明日も、頑張ろうね。俺、汐梨ちゃんのこと、ちゃんと支えたいんだ」
汐梨は、一瞬目を丸くする。
汐梨「……ありがとう、先輩」
そして、にっこり笑った。
(恋の幕も、そろそろ――あがるのかもしれない)