【シナリオ】恋も未来も、今はまだ練習中。

第3話 パンケーキとレッスンと



 ○パンケーキ屋【フラッフィー】/夕方

  講義が終わり、汐梨は美哉に教えてもらったお店にスマホの地図アプリを見ながら到着する。
汐梨「ここ……?」ホームページの外観の写真を見ながらキョロキョロ
 汐梨は入口で戸惑いながら店の外観を見上げる。

汐梨「……ほんとに、ここで合ってるのかな?」

 スマホの地図と目の前の店舗を何度も見比べる。すると店のドアが開き、中から美哉が顔を出す。

美哉「あ、来た来た〜!」

汐梨「え、貸切って書いてましたけど……?」

美哉「そ。うちのサークルで予約してるんだ。って言っても、今日来れるのは5人くらいだけど」

汐梨「そんな少人数で……?」

美哉「甘いもの食べて癒される会だからね〜。たまにしかないけど、ちゃんと新歓も兼ねてるよ」

 そう言って、汐梨の手を引く。あたたかな店内には、ふんわりした甘い香りが満ちていた。


 

○パンケーキ屋【フラッフィー】・店内

 店内はナチュラルウッドと白を基調とした優しい内装。大きなテーブルを囲んで座っているのは、美哉と榛名、そして女性メンバーの柚子(ゆず)と理玖(りく)。どちらも柔らかな雰囲気で、笑顔で汐梨に手を振る。

柚子「わあ、初めまして! 一年生?」

理玖「ようこそ〜。席、空いてるよ〜」

美哉「こっちこっち〜」

 案内された席に座ると、スタッフがちょうど注文したパンケーキを運んでくる。

スタッフ「お待たせしました、フラッフィーパンケーキスペシャルです」

 ふわふわに焼きあがったスフレパンケーキの上に、生クリームとカットフルーツが山盛り。粉砂糖がふわっと舞い、汐梨は目を丸くする。

汐梨「すごい……おいしそう……!」

 美哉が満足そうに頷く。

美哉「でしょ? ここ、俺の推し店なんだよね」

 全員で「いただきます」と手を合わせ、ふわふわパンケーキを一口。

汐梨(……やばい。なにこれ、口の中で溶ける……)

 その表情に、美哉がクスクスと笑う。

美哉「いい顔してるね。癒された?」

汐梨「はい……少し元気出ました」



 

○パンケーキ屋・テーブル上/夜に近い夕方

 食後、リラックスした雰囲気の中、榛名が話を切り出す。

榛名「それで、汐梨ちゃん。入部は……どう? 今日のメンバーでだいたい半分くらいかな。みんな穏やかで、無理強いはしないよ」

柚子「うちは特に一年生を追い詰めるようなこともしないし、授業に役立つこと、いっぱい教えてあげられると思うよ」

理玖「……追試組同士、助け合ってる感じだよね」

 美哉も静かに汐梨の表情を見つめている。汐梨は少し迷ってから、ゆっくりと口を開く。

汐梨「……私、サークルって怖いと思ってました。でも……今日、すごく楽しくて。こんなふうに笑えたの、久しぶりかもしれないです」

 そして一呼吸置いて、頭を下げる。

汐梨「もし、こんな私でも受け入れてもらえるなら……入部、したいです」

 その瞬間、榛名が手を叩く。

榛名「おっけー!! 大歓迎だよ、梶塚さん!」

柚子「わ〜! うれしい〜!」

理玖「新メンバー……ふふ、がんばろ」

 美哉はにこにこと笑い、汐梨に言う。

美哉「これで、君も仲間だね。じゃあさ、記念に一曲……ピアノ、今から少しだけやってみる?」

汐梨「えっ!? ここで!?」

美哉「ううん、サークル室戻ろうかって話。パンケーキ食べて甘い気分のまま、音出してみようよ」

汐梨「……が、がんばります」

 そうして、サークルという小さな居場所が汐梨の中に根づき始めた。
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