年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
「シートベルトしてくださいね」
「あっ、はい」
「なんで、敬語ですか?」

つい、かしこまって答えた私に、鷹野君がクスクスと笑うことで私も少し緊張が和らいだ。慌ててシートベルトをきちんと締め直すと、彼は笑ったまま車を発進させた。

地下からホテルの外に出ると、先ほどまでは晴れていたが、細かい雨が降り空は雨雲が広がっていた。
「降ってきましたね」
鷹野君が何気なく呟く。その視線につられて私も空を見上げた。薄いグレーに染まった空はどんよりとしていて、建物の間を漂う湿った空気が車窓にうっすらと曇りを生じさせている。歩道を行く人々は、傘を持っていないのか、足早に軒下へと避難していた。

「雲の上は晴れてるんだよね」
声に出した瞬間、なんでこんなことを言ってしまったのだろうと思い、はっとして口を閉じた。

「そうですね」
否定することのなく、鷹野君の声が静かに返ってきた。そして鷹野君はフロントガラス越しに遠くに視線を向け静かに言葉を続けた。
「どれだけ地上に雨が降っていても、雲の上はいつだって晴れますよ」
鷹野君のその話に、その景色を想像しながらつい本音が口をついて出た。
「その景色が見られるの、うらやましい」
何気なく言ったつもりだったが、そう口にした瞬間、鷹野君がちらりとこちらに視線を向けた。
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