年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない

その瞬間、ふと過去の記憶がよみがえる。実家にいたころ、私はいつも一人で玄関から「ただいま」と言い、家に入っていた。
「おかえり」――その言葉が返ってきた記憶は、数えるほどしかない。

「おかえり」
感慨深い気持ちを胸に、その言葉を静かに返す。

すると、鷹野君は穏やかに笑いながら部屋の中を見回した。

「大丈夫そう?」
「うん。十分すぎる」
振り返って部屋を一緒に眺めながら、私はそう答えた。

「俺の荷物は昨日のうちに運んでもらったし、俺ものんびりやるから、望海も無理せず、ゆっくり片付けて」
その気遣いをありがたいと思いつつも、なにもしなくていいのかとも思う。
けれど、結婚も、一人暮らしも、同居も初めての私にとって、この新しい生活の中でなにをすればいいのか、どうすることが正解なのかはまだわからない。
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