年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
Side 奏多
「楽しんで」
顔が見られないというのは、ありがたいことかもしれない。本当は――「誰と? どこで?」そんなことを聞きたくなった自分を戒める。
スマホをベッドサイドに置き、ゆっくりと伸びをすると、シーツの心地よい感触が全身に伝わる。
今回のフライトは、ロンドンからニューヨーク、そして成田へと向かう長距離フライトだ。今までも何度も経験しているが、こんなにも早く帰りたいと思うのは、家に望海がいるからだろう。
ホテルは空港周辺のラグジュアリーホテル。広々とした部屋には、ベッドの向かいに大きな窓があり、外には朝焼けに染まり始めたニューヨークの街並みが広がっている。
グレーとゴールドを基調にした落ち着いたインテリアの部屋は、静かで心地よい空間だ。
それなのに、楽しむ気にもなれず、カウンターの上には、初めから用意されていたワインやフルーツが手つかずのまま置かれている。
デジタル時計を確認すると、朝六時。
ベッドヘッドに寄りかかり、ゆっくりと息を吐いた。
彼女と一緒にいると、ただたわいもない会話をしているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。
それなのに、ふとした瞬間に、仕事とのギャップの大きさを痛感する。