年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
「姉さん、偶然ね」
クスッと笑うその声に、背筋が強張る。冷たい汗が背中を流れ落ちるのがわかった。
鏡越しに目が合ったのは、真っ赤なルージュを引き、身体のラインが際立つタイトなドレスを身にまとった沙羅だった。私はごくりと唾を飲み込む。
「ねえ、どうしてそんな格好してるの? その服、きれいだけど……あんたが着ると安っぽく見えない?」
沙羅は鏡に映る私をじっと見つめながら、楽しげに問いかけてくる。
「ただの政略結婚で、都合がいいから選ばれただけなのに」
昔から、沙羅はこうだった。どう言えば人が傷つくのか、どんな言葉が一番痛みを伴うのかを本能的に理解していて、迷いなくそれを選んで口にする。
「私が同じ店にいたことにすら気づかないなんて」
沙羅はため息混じりにそう言うと、くるりと向きを変え、正面から私を睨みつけた。そして、苦々しげに眉を寄せる。
「私があそこで一番注目されていたのよ」
沙羅の声が冷たく響く。彼女はいつも自分が一番でなければ気に入らない。
「なのに、あなたが奏多さんと一番の個室にいるなんて許せない」
――許せない?
なにを言っているのかと思った。沙羅が誰と来ていようと、それがどんな立場の人であろうと、私には関係がない。それなのに、なぜこんなふうに責められなければならないのか。