年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
「望海のことだ」
まさかここで彼の口からその名前を聞くとは思っていなかった俺は、手にしていたグラスに口をつけることなく、元の場所へ戻す。
「望海の?」
そう聞き返すと、今度は木村機長の表情が完全に歪んだ。
「呼び捨てにしているのか? 望海を虐げるために」
「なにを……」
言っている意味がまったくわからず、思わず語気を強める。
「政略結婚で、愛のない結婚をしたのだろう。本当は沙羅のほうがよかったのに。沙羅も、本当は自分が結婚相手になるべきだったと言っていた。だから、望海を解放しろ」
まったく意味がわからない。どうして沙羅さんのほうが「よかった」ことになるのか。
「お言葉ですが、何のことですか? 私は望海だから結婚したのであって、沙羅さんとの結婚など考えたこともありません」
上官だろうがこの件に関してはきちんと言わせてもらわなければ、そう思い俺ははっきりと言い切ると、木村機長を見据えた。
「は? お前ほどの人間が望海を望んだだと? どんな裏があるんだ? 沙羅より都合よく使えるからか? 家事ができるし、言うことをきくからか?」
この人は望海をどう思っているのだろう、今の言葉は望海を思っているというよりも、下にみているようにしか思えない。