年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない


少しして、奏多くんがボーディングブリッジを通り、搭乗ゲートへと姿を見せた。

「鷹野機長!!」

そこにいたすべてのスタッフが安堵の声を上げた。そのとき、父の横で苦虫を噛み潰していた沙羅が、先ほどとは別人のような表情で走り出した。

「奏多さん、大丈夫ですか?」
周りも奏多くんの婚約者だと思っているのか、誰も口を出さずに見守っていた。

「心配したんです。本当に」
そう言いながら、沙羅の瞳からはハラハラと涙が零れ落ちている。噂から見れば、婚約者が心配している光景に見えるのだろう。

「望海、お前も疲れただろう」
一部始終を見ていただろう征爾兄さまが私のそばに来たときだった。

「木村機長、私の妻に触れないでもらえますか?」
その静かだが、はっきりと聞こえた声に、こんな状況だが、一瞬その場にいたすべての人が唖然としたのがわかった。

「あの、奏多さん? 急にどうした……」
沙羅がこの場で、そんなことを言うとは想像もしていなかったのか、今までとは違う、焦ったように表情が醜く歪む。そして奏多君の腕に触れようとした時だった。
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