年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない

「のぞ……若林がそう言うなら」
一瞬、普段の呼び方が口をついて出かけた征爾君が、咄嗟に言い直した。

対談が再開されてからの約一時間、私はずっと北村さんの隣に立ち、質問の意図や返答のポイントを簡潔に伝え続けた。
ときに手元の資料を差し出し、ときに視線だけで次の答えを促す。彼女に答えさせながらも、周囲のテンポを崩さないよう、神経を張り詰めたままの作業だった。

社長である父は途中で、「そうじゃない、もっと簡単に言わせなさい」とか「気を利かせて先回りして指示を出せばいいだろう」と理不尽なことを口にし、それでも私は笑顔を崩さずに対応したつもりだ。

誰に感謝されるわけでもない。だけど今ここで、空気を壊してはいけない。そんな一心だった。
撮影が終わり、全員がようやく椅子の背に体を預けたころ、父がふとこちらを見やった。

「若林さん。もう少し、彼女にわかりやすく教えてあげられたらよかったんじゃないか?」
その横で、北村さんもどこか他人事のように小さく頷いた。

「ほんとそれです。なんか、ややこしくて余計に緊張しちゃって……」

 ――ありえない。

思わず息を呑んだそのときだった。
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