年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
二階の踊り場に立ち、ホールを見下ろしながらバッグを握りしめ、深く息を吸い込む。
目に飛び込んできたのは、苛立ちを隠そうともしない父の顔だった。光沢のあるスリーピースに身を包み、髪はきっちりと整えられている。きっと、いつもより上質なものなのだろう。しかし、そのスーツの下には中年特有の膨らんだ腹が目立ち、どっしりとした体つきが威圧感を放っていた。
「準備ができているなら、さっさと降りてこい。先方を待たせるなんてありえない!」
鋭い声がホールに響き渡る。
私はキュッと唇を噛み、階段を下り始めた。だが、慣れない草履では思うように足が進まず、自然と足元ばかりを見つめることになる。
「急ぎなさい!」
苛立ちを隠そうともせず声を荒げる父の横で、ダークブルーのスーツに身を包んだ母は俯いて立っていた。
彼女の細身で姿勢の良いシルエットは、どこかモデルのような美しさがある。だが、その顔にはほとんど生気がなく、眼差しも虚ろだ。結局、母はいつも通り父の影に隠れるだけで、私に言葉をかけることはない。
いつしか、期待するだけ無駄だと悟るようになった。