年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
案内役の女性が、完璧な和服に身を包み、深々とお辞儀をして迎えてくれた。その振る舞いに、自然と背筋が伸びるのを感じる。
「お連れ様がお待ちです」
案内役の女性が告げると同時に、父が私を鋭く睨みつけた。

「お前の支度が遅いからだろう! きちんと詫びなさい!」
父の冷たい声に、私は心の中でため息を吐きながらも、「はい」と小さく答える。こんな場所でそんな言い方をするのもどうかと思うが、反論すれば余計に面倒なことになるだけだ。

そのときだった。背後から足音が聞こえた気がして、私は思わず振り返る。
「私も遅くなり、申し訳ありません」
振り返った先に立っていたのは、いつもの制服姿やカジュアルな服装とはまるで違う、完璧なスリーピーススーツを身にまとった鷹野君だった。

「いや、ああ、これは……奏多くん、この間はありがとう」
父は今の言葉を聞かれたことに焦ったのか、珍しく慌てた様子で頭を下げた。

「いえ、私こそ」
にこやかに笑う鷹野君は、どこからどう見ても完璧な御曹司にしか見えない。美しい歩き方に、立ち居振る舞い。会社でもこの間食事をしたときも完璧なマナーだとは思っていたが、こうしてこういう場にいると、とてもしっくりくる気がした。

「ご案内いたしますね」
案内役の女性の声に、私たちは奥まった個室へと向かった。通された部屋は、「静月(しずつき)」と名付けられた特別室だった。その名にふさわしく、上質で静寂な和の空間が広がっている。
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