王太子の婚約破棄で逆ところてん式に弾き出された令嬢は腹黒公爵様の掌の上【短編】
結婚式は滞りなく終わり、後席のパーティーの時間。
王太子の結婚で国中の貴族が集まっているので、ディアナはアルベルトの婚約者として挨拶回りに励んでいた。
さすがに疲れたので、彼女がバルコニーで一休みをしていると――……。
「ディアナ」
聞き覚えのある声が、彼女の耳をくすぐった。
「王太子殿下、この度は誠におめでとうございます」
彼女はカーテシーをする。
それはもう、臣下としての態度だった。
「ごめん……。間に合わなかった」
ハインリヒは悲しい顔で元婚約者を見る。
彼女はそれに気付かない振りをして、表情を崩さずに言う。
「殿下と妃殿下の婚姻の儀の参列が叶い、至極光栄でございます」
再び、事務的に述べる。強がりではないし、純粋なお祝いの気持ち。
でも、ちゃんとケジメをつけなければいけないと思った。
「ディアナ!」
「っ……!?」
次の瞬間、ハインリヒはディアナを抱き締めた。気持ちを押し付けるように、強く力が込められている。
「僕は、君のことが好きだ! 絶対に離したくない!」
「止めてください!」
ディアナは弾くように彼から離れる。不快だと思った。迷惑だと思った。
彼女の心は、もう気持ちが残っていなかった。
王太子はひどく傷付いた様子で彼女を見つめて、
「僕は君が好きだ。誰にも渡したくない。……シャルロッテと話を付けたんだ。二人の間に王子が生まれたら、側妃を迎えてもいい、って。だから、その時は、君を――」
「殿下!」
ディアナは声を荒げて、王太子の言葉を遮った。
初めて見る元婚約者の腹の底から怒っている顔に、彼の心臓がギクリと縮こまった。
彼女は怒りを鎮めるように、深呼吸をしてからゆっくりと口を開く。
「二番は嫌です、殿下。それに……私はもう一番を見つけましたから」
そして、彼の返答を待たずに踵を返した。
ハインリヒは何も言えず身体も動かず、ただ元婚約者を見送る。
ふと、人影が映ったかと思ったら、そこにはディアナの新しい婚約者――アルベルト公爵が優しく彼女に手を差し伸べているところだった。
二人は王太子など眼中にないかのように、決して振り返らずに去っていく。
それを見てハインリヒは「あぁ、自分の恋は終わったんだ」とやっと気付いた。