キスはボルドーに染めて
 陽菜美は心臓のドキドキを抑え込むように、慎重にコーヒーの粉をスプーンですくう。

 背中には、じっと自分を見つめている蒼生の視線を感じる。


 ――さっきから蒼生さん、どうしたんだろう。そういえば、何か言いかけてたような……?


 あまりの恥ずかしさに話を(さえぎ)ってしまったが、今になって蒼生が何を言おうとしていたのか気になってくる。


 するとふと意識が手元から逸れた陽菜美は、ドサッと派手にコーヒーの粉を床にぶちまけてしまった。

「た、大変……!」

 思わず陽菜美が叫び声を上げると、蒼生がすぐに駆け寄ってくる。

「……どうした? 大丈夫か?」

「ご、ごめんなさい。コーヒーの粉をこぼしてしまって……きゃ!」

 早く掃除をしなければと動揺した陽菜美は、こぼれた粉を避けようようとして、今度は絨毯に靴のヒールを引っかけて大きく態勢を崩してしまった。

 もう陽菜美の身体は床に一直線だ。


 ――なんてドジなの……。


 ドキドキしたり青ざめたり、蒼生を意識してからというもの、陽菜美の心は忙しい。
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