キスはボルドーに染めて
(わたくし)はね、信頼できる人の話しか、聞きたくないのですよ」

「と、言いますと?」

 首を傾げる蒼生に、美智世はふんと鼻を鳴らした。


「つい先日、そちらの秘書さんの噂が耳に入りましてね」

 チラッと陽菜美に目をやる美智世のいやらしい声に、陽菜美は固まったようにその場に立ち尽くす。


 ――やっぱり、この場であの噂を出すんだ。


 陽菜美が身構えるようにキュッと口を結んだ時、蒼生が演台からこちらへと出てきて、美智世の正面に立った。


「それは、どのような噂で?」

 蒼生の低い声に、美智世はわざとらしく顔を背ける。

「ご本人にお聞きになったらどうかしら? まぁ言えることは、経営企画室は揃いも揃ってってことね」

 言葉を濁しながら、くすくすと秘書と顔を見合わせる美智世の姿に、蒼生の眉がぴくりと動いた。


「つまりそれは……」

 蒼生は明らかにいつもより低い声を出すと、さらに一歩、美智世に詰め寄ろうとする。

 その様子を見た途端、陽菜美は慌てて蒼生と美智世の間に割って入った。
< 118 / 230 >

この作品をシェア

pagetop