キスはボルドーに染めて
「蒼生さん待ってください」

 陽菜美はそう言うと、眉をひそめる美智世の方に顔を向ける。


 ――これは私の問題だ。自分で解決しなきゃいけない。


 陽菜美はぐっと拳を握り締めると、美智世に向き合うように姿勢を正した。


「社長お言葉ですが……」

 陽菜美の口元は、もう震えている。

 驚くほど静まり返った会議室では、これから陽菜美が何を発するのか、皆が固唾を飲んで見守っていた。


「社長はつい先ほど、信頼できる人の話しか聞きたくないとおっしゃいました。その噂は信頼できる人からの情報ですか?」

 もし美智世が聞いた噂が沙紀からのものだとすれば、美智世自身は当然、沙紀との面識はないはずだ。


 ――イチかバチか。でもそこに掛けるしかない。


 陽菜美はぐっと自分を奮い立たせるように美智世を見据える。

 美智世はというと、自分に意見してきた陽菜美が相当気に入らなかったのか、目を見開いて怒りでわなわなと肩を震わせていた。


「あなた……(わたくし)に口ごたえする気!?」

 美智世の剣幕にひるみそうになりながらも、陽菜美は静かに言葉を続ける。
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