キスはボルドーに染めて
「ミモザです」

 バーテンダーは落ち着いた声でそう言うと、ほほ笑みながら去っていく。

「シャンパンとオレンジジュースのカクテルだよ。陽菜美によく似合うと思って」

 蒼生の低く優しい声に、陽菜美ははにかみながら、そっとグラスを持ち上げた。

 シャンパンのきめ細やかな泡が立ち上るグラスは、店内の暖色の照明に()らされて、まるでボルドーの夕日のようだ。


「素敵……」

 思わずうっとりと声を出した陽菜美は、隣の蒼生の深い瞳を見てドキリと下を向いた。

 蒼生はさっきから、ずっと陽菜美の横顔を見つめている。

「あ、蒼生さんは、ここにはよく来るんですか?」

 乾杯した陽菜美は、ぐっとミモザを口に含むと、その清涼感に助けられるように声を出した。

 そうでもしないと、ドキドキとする鼓動の音を蒼生に気づかれてしまいそうだ。

「たまにな。どうして?」

 蒼生はブランデーのグラスに口をつけると、そっと首を傾ける。

「なんとなく、蒼生さんは、夜景の綺麗なホテルのバーとかに行くのかなと思ってたので……」
< 128 / 230 >

この作品をシェア

pagetop