キスはボルドーに染めて
 陽菜美はえへへと笑うと、見つめられすぎて熱くてたまらない頬を感じながら、再びミモザを口に含んだ。

「そりゃあ俺だって、軟派(なんぱ)に口説きたいときは、そういう所にも行ったりするよ」

 蒼生は手に持っていたグラスをテーブルに置くと、そっと陽菜美に顔を覗き込ませる。

「でも今は違う」

「え……?」

「陽菜美を、本気で落とそうとしてるから」

 蒼生のやけに色っぽい声に、陽菜美はカッと頬を真っ赤に染めると、慌ててうつむいた。


「あ、蒼生さんったら……」

 陽菜美はアルコールも相まって、徐々に全身が火照(ほて)るのを感じながらゆっくりと顔を上げる。

「もう、とっくに落ちてるのに……」

 陽菜美は自分で言いながら恥ずかしくてたまらない。

 思わず目を閉じた陽菜美の前で、蒼生が静かに息を吸うのがわかった。


「陽菜美……」

 蒼生の低くて優しい声が耳元で聞こえる。


 ――あぁ、蒼生さんのこの声も好きだな……。


 陽菜美がそう思った瞬間、覗き込むようにした蒼生の唇が、陽菜美の唇に重なった。
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