キスはボルドーに染めて
 蒼生はガックリと陽菜美の肩に頭をもたげると、陽菜美の腰に回した長い腕にぎゅっと力を込めた。

「だ、だって……カメラがあるかも知れないし……」

 蒼生の胸元に顔をうずめながら、陽菜美はもじもじと声を出す。

「蒼生さんの色々な表情は、私が独り占めしたいんです」

 陽菜美がそう言った途端、顔を上げた蒼生は、ひょいと陽菜美を抱きかかえた。


「きゃ……あ、蒼生さん!?」

 慌てる陽菜美をお姫様抱っこしたまま、蒼生はポンと音を立てて開いた扉を素早くすり抜ける。

「ど、どうしたんですか?」

 陽菜美が顔を上げると、蒼生は口を尖らせながらチラッと陽菜美に目を向けた。


「陽菜美が、(あお)るのが悪いんだからな」

 蒼生はまるで子供のようにふてくされた顔を見せると、絨毯の敷かれた静かな廊下を奥へと進む。


 ――あ、蒼生さん、かわいい……。


 腕の中で揺られながら、陽菜美は悶絶するように口元を緩ませると、蒼生の首元にそっと手を伸ばした。

 両手でぎゅっと抱きつくと、熱く火照(ほて)った蒼生の胸元からムスクの香りがほんのりと漂う。
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