キスはボルドーに染めて
「農園の人たちが、みんないい人でさ。俺が一人暮らしだからって、葡萄畑の並びにある家庭菜園の野菜を土ごとくれたりしてたんだ」

「あぁ、だからこんなに並んでるんですね」

 蒼生の話を聞きながら、陽菜美は昔の蒼生の姿を思い浮かべる。

 今でこそ蒼生は魅惑的な色気のある大人の男性だが、若い頃は華があって一瞬で人目を惹く青年だったのだろうと想像できた。


 ――そう言えば……。その頃って、まだ蒼生さんはOTOWA(オトワ)ホールディングスにいたんだよね。


 陽菜美の脳裏に、ふと皆がしていた話がよぎる。

 蒼生は元々親会社で働いていたが、三年前に急にOTOWine(オトワイン)に入社することになったと言ってはずだ。

 その頃、蒼生に何があったのか知りたい気持ちはある。

 でも蒼生からは、その話が出たことはなかった。

 そして陽菜美自身も、それを無理に聞いてはいけないような気がしていたのだ。

 陽菜美は、キッチンで手を動かす蒼生の横顔をそっと見つめる。
< 140 / 230 >

この作品をシェア

pagetop