キスはボルドーに染めて
 その顔に、あのボルドーの丘で見た悲しみを押し殺したような横顔が重なって、陽菜美は慌ててふるふると大きく首を振った。


 ――きっと蒼生さんなら、いつか話してくれる。私は蒼生さんを信じて、待った方がいいんだ。


 陽菜美がそう自分に言い聞かせた時、キッチンから香ばしい香りと共に、ジュージューとフライパンを振る音が聞こえてくる。

 陽菜美は驚いたように顔を上げると、バルコニーの窓を閉じてキッチンに駆け寄った。


「蒼生さん、料理もできるんですか!?」

 陽菜美が目を丸くしながら覗き込むと、蒼生は得意げにフライ返しを掲げている。

「まあな。一人暮らしが長いから、これぐらい訳ないよ」

 蒼生はそう言うと、出来立てのベーコンエッグをトーストののったプレートにひょいとのせた。

 アツアツの目玉焼きの上に手際よくミルで荒く挽いた黒胡椒を振りかけ、脇にレタスとミニトマトを添えたら、あっという間に豪華な朝食の完成だ。

 適当に用意すると言っていたのに、コーヒーと共に並んだプレートは、まるでホテルのモーニングさながらの出来栄えだった。
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