キスはボルドーに染めて
 食欲をそそる香りに、陽菜美は目を輝かせると、蒼生と向かい合ってダイニングテーブルについた。

「いただきます」

 陽菜美は蒼生と一緒に手を合わせると、フォークで取ったベーコンを口に入れる。

 途端にジュワッとジューシーなうま味が口いっぱいに広がって、陽菜美は思わず「美味しい!」と叫んでしまった。

 そんな陽菜美を見て、蒼生は心の底から楽しそうな笑顔を見せた。


「不思議だな。陽菜美とこうして食卓を囲んでいるなんて」

 食後のコーヒーを口に運んでいた蒼生が、優しくほほ笑みながら顔を上げる。

 その顔つきは会社にいるときよりも何倍も穏やかで柔らかく、陽菜美に何のためらいもなく素を見せてくれているのだとわかった。

「私だって、まさかボルドーで出会った蒼生さんと、こんな風になれるなんて思ってもみませんでした」

「まぁすべては、陽菜美がはちゃめちゃだったおかげだな」

「もう! 蒼生さんったら」

 二人はくすくすと肩を揺らすと、顔を見合わせて笑う。
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