キスはボルドーに染めて
「あ、あの……。それ、私なんです……」

 陽菜美の声に、純玲は目を見開いて固まっていたが、しばらくして気を取り直したように息を吸った。

「驚いたわ、秘書さんがお相手だなんて……お付き合いは順調?」

 純玲はにこやかにそう言いながらも、陽菜美の姿を上から下までじっと眺めている。


「はい……順調かと思います」

「そう。でも蒼生さんは立場があるし、なかなか難しいわよね。仕事が最優先でしょうし……」

「えっと……」

 伺うような純玲の視線に、陽菜美はどぎまぎとしながら顔を上げた。

 蒼生との付き合いを、どこまで話してよいものだろうか。


 その時、いつの間にか席を立っていた結翔が、窓際の鉢植えに手を伸ばす姿が視線の端に映り込む。

「危ない!」

 陽菜美と純玲は叫び声を上げると、慌てて窓際に駆け寄った。

 すぐに陽菜美は鉢植えを、純玲は結翔を抱き上げる。

 すんでのところで、どちらも無事に取り上げられ、大事には至らなかった。


「結翔がごめんなさいね。でも……随分と寂しい鉢植えね」

 ほっとする陽菜美の手元を覗き込んだ純玲が、くすくすと苦笑を浮かべながら声を出す。
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