キスはボルドーに染めて
 杉橋の声に陽菜美ははっと息をのむ。

「三年前……」

 その時、陽菜美の脳裏に、美智世の顔が浮かんだ。


 『私、人のものに手を出す人間は大嫌いよ』

 『経営企画室は揃いも揃って……』


 あの時は、陽菜美の噂に対する軽蔑の眼差しだと思っていた。

 でもそれが、蒼生に対しても向けられているものだとしたら……。


 ――まさか……蒼生さんとお義姉さんが……?


 陽菜美はドクドクと心臓が激しく動き、息苦しくなった胸をぎゅっと掴む。


 ――嫌よ! そんな事、考えたくもない……!


 陽菜美は叫び出しそうになる口元を押さえると、耐え切れずにその場にしゃがみ込んだ。


「陽菜美ちゃん、しっかりして!」

 叫び声を上げた杉橋が駆け寄り、陽菜美の肩を支えようとする。

 その時、コツコツとこちらへ向かって歩く、誰かの革靴の音が聞こえてきた。

 陽菜美ははっと顔を上げると、杉橋と顔を見合わせる。

「陽菜美? そこにいるのか?」

 そう言いながら、ヒョイと給湯室に顔をのぞかせたのは蒼生だ。
< 159 / 230 >

この作品をシェア

pagetop