キスはボルドーに染めて
 蒼生は中を覗き込んだ途端「こりゃまた派手にやったな」と笑い声を立てる。

「そ、そうなんだよー。まき散らしちゃってさぁ。俺、ちょっと(ほうき)でも探して来るね」

 杉橋は頭をかきながら、わざとらしく明るくそう言うと、給湯室を駆け足で出ていく。

「あいつは、いつも騒々しいな」

 蒼生はあははと笑うと、そっと下を向く陽菜美の前に顔を覗き込ませた。

 いつもと変わらない蒼生の笑顔に、陽菜美は溢れそうになった涙を袖でゴシゴシと拭うと慌てて立ち上がる。


「蒼生さん、お帰りなさい……」

 赤くなった目を隠すようにうつむく陽菜美に、蒼生は小さく首を傾げたが、優しく陽菜美の頭にポンと手を置いた。

「ただいま。今日は陽菜美が飛んで喜ぶ話を持って帰って来たからな。部屋に戻ったら資料を……」

 蒼生がそこまで言った時、廊下をパタパタと駆けるおぼつかない足音が響く。

 陽菜美ははっと強張った顔を上げると、咄嗟に蒼生の腕を引いた。

「陽菜美? どうした?」

 蒼生は不思議そうに首を傾げている。

 それでも陽菜美は、蒼生の手を離さずに、部屋の奥へとぐっと引っ張った。
< 160 / 230 >

この作品をシェア

pagetop