キスはボルドーに染めて
「つい先日、一輝から聞かされて、正直私も驚いたよ」

 父親がスマートフォンを差し出して、蒼生が画面を覗き込むと、そこには小さな男の子が、ほほ笑む写真が映し出されていた。


 ――この子……どこかで見た覚えが……?


 小さく首を傾げた蒼生は、次の瞬間はっと目を見開く。

 この子は昼間、純玲が連れて来ていた男の子だ。


 ――確か、名前は結翔……。


 父親はスマートフォンの画面を真っ暗にすると、再び厳しい目を上げた。


「純玲さんがお前に未練があることは知っていた。一輝もそれを承知で結婚したからな。でもまさか、お前がここまで道を踏み外していたとは」

 ため息をつきながら首を振る父親に、蒼生は訳がわからず目線を泳がす。

「お父さん、何を言って……」

「一輝も、散々悩みぬいたそうだ。だが、純玲さんと離婚はしないと言っている。その代わりお前には、一生をOTOWAグループと結翔のために捧げろと」

「待ってください! 言っていることの意味が分かりません!」

 蒼生は身を乗り出すと、デスクにバンと両手をついた。

 その音に、父親が怒りを押し殺した顔を上げる。

「蒼生! お前に身に覚えがないとは言わせんぞ。自分でしたことの始末くらい、自分でつけたらどうなんだ!」
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