キスはボルドーに染めて
 昨夜のことと言えば、蒼生が父親に呼ばれたことだろうか?

「昨夜って、何のことですか?」

 戸惑う陽菜美を見ながら、純玲はふふっとほくそ笑むと、ゆっくりと陽菜美の耳元に顔を近づけた。


「だって、蒼生を借りてしまったんだもの……」

「え……」

 純玲の声に陽菜美は目線を泳がせる。

 すると純玲は楽しそうにくすくすと肩を揺らした。

「あら、その様子じゃあ、連絡は入ってなかったようね」

 陽菜美ははっと息を止めると、固まったように純玲の顔を見つめる。


 ――どういうこと……? 蒼生さんは、純玲さんと会っていたってこと……?


 陽菜美の心臓がドキドキと激しく動き出す。

 息苦しさを感じた陽菜美の前で、純玲はやや赤く染めた頬を上げた。


「蒼生は一晩中、私の側にいて慰めてくれたわ……。意味、わかるわよね?」

 その言葉に、はっと息を吸った陽菜美の呼吸が荒くなる。


 ――本当なの……?


 ドキドキと脈うつ胸元に手を当てると、陽菜美はじっと昨日の蒼生の様子を思い出した。
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