キスはボルドーに染めて
 ふと顔を上げると、蒼生がいつもパソコンに向かっているデスクが見える。

 蒼生はいつもそこからチラッと陽菜美を覗いては、恥ずかしがる陽菜美にあははと笑顔を見せていた。

 陽菜美は潤んだ瞳をそっと横に動かし、部屋の壁際にあるサイドボードを見つめる。

 そには陽菜美が初めてここに来た時と同じように、ケトルと並んで蒼生のお気に入りのコーヒーカップが伏せて置いてあった。


 ――あぁ本当に、蒼生さんを忘れなきゃいけないの……? 全部さよならしなきゃいけないの……?


 陽菜美は顔を覆うと、嗚咽するように泣き出した。

 蒼生を知ってしまった陽菜美の心と身体は、蒼生を忘れることなんてできないのに、別れろというのだろうか。

 この先、蒼生がいない人生なんて、到底考えることなんてできないのに……。


 ――蒼生さんは、本当に決断したの? だから連絡をくれないの?


 陽菜美の中は疑問で溢れかえる。

 もう心の中はぐちゃぐちゃなまま、ただ蒼生に会いたいという気持ちだけが、陽菜美の中で膨らんでいた。
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