キスはボルドーに染めて
「だから私は一輝に告げたの。結翔は蒼生の子だと」

「なぜそんな嘘を!?」

 陽菜美が思わず声を上げながら身を乗り出すと、純玲はふんと小さく息を吐く。

「蒼生を自由にさせないためよ」

 純玲の声は静まり返った部屋に響き渡る。

「俺を、自由に……させない?」

 蒼生が驚いた顔でつぶやいた。

「そう、蒼生の心を、少しでも私のそばに置いておくため……」

 純玲はそう言うと静かに目を閉じる。


「私は一輝に、結翔のことを告げた後、帰国して蒼生に会いに行ったわ。そして、あなたに会った……」

 しばらくして純玲は顔を上げると、目の前で佇む陽菜美の顔をじっと見つめる。

「私は、幸せそうな顔をするあなたが、憎くてたまらなかった。だから壊したの。蒼生に愛されているあなたと、あの鉢植えを……」

 ぎゅっと唇を嚙みしめる純玲に、陽菜美は心の底からゾッとする。

「なんて恐ろしいの」

 美智世がつぶやくように声を出した。


 その時、パンという音が部屋に響き渡る。

 はっと顔を上げた陽菜美の前で、純玲が真っ赤に染まった頬を手で押さえていた。


「結翔は、お前の心を満たす道具じゃない!」

 一輝の鋭い声が聞こえる。

 一輝は純玲の頬を叩いた手で純玲の肩を掴むと、何度も何度も強く揺すった。
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