キスはボルドーに染めて
 経営企画室を出た陽菜美は、バタバタと足を鳴らしながら廊下を進む。

 通りがかりの社員たちに「いってらっしゃーい」と声をかけられながら、陽菜美は蒼生と一緒にエレベーターに飛び乗ると、そのまま通りに止まっていたタクシーに乗り込んだ。

 車はゆっくりと発進し、徐々にスピードを上げていく。


 しばらくしてやっと落ち着きを取り戻した陽菜美は、鞄からスマートフォンを出すと、画面にこれから乗る飛行機のチケットを表示させた。

 チケットに書かれた目的地は“Paris/SDG(パリ=シャルル・ド・ゴール空港)”だ。

 その文字に、陽菜美の心は沸き立つ思いで溢れだした。


 陽菜美はこれから蒼生とともに、あのフランスボルドーに向かう。

 毎年四月の上旬に行われる“ボルドープリムール”に、今年はOTOWAグループの代表として、蒼生と陽菜美が行くことになった。

 蒼生が言っていた“陽菜美が飛んで喜ぶ話”とは、そのことだったのだ。

 陽菜美は高鳴る胸を感じながら、隣に腰かける蒼生をそっと見上げる。
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