キスはボルドーに染めて
多少声が大きくなる陽菜美に、貴志は急にオロオロと慌てだす。
「いやいや、それは困るよ。結城さん……」
貴志は顔の前で両手を振ると、再びそっと顔を近づけた。
「俺だって本当は、陽菜美ちゃんとこれっきりにしたくないんだ。わかってよ」
急に顔を寄せ、耳元でささやく貴志に、陽菜美は自分の勢いが一瞬ひるむのがわかる。
――悔しい……。
この男は自分がこう言えば、陽菜美が恨み言なんて言わなくなると知っているのだ。
するとうつむく陽菜美の耳に、「きゃあ♡」という悲鳴にも似た歓声が聞こえてくる。
どうもその声は、フロアの入り口辺りにできた、人だかりから聞こえているようだ。
ぼんやりと視線を上げた陽菜美は、女性社員が取り囲む中の、ひと際背の高い男性を見て息を止める。
――え? なんで……?
これは夢だろうかと、陽菜美はもう一度目をこらして見た。
「……蒼生……さん?」
陽菜美の唇がかすかに震える。
あの日偶然に出会い、きっともう二度と会わないだろうと思っていた人が、今静かにこちらに向かって歩いて来るではないか。
「いやいや、それは困るよ。結城さん……」
貴志は顔の前で両手を振ると、再びそっと顔を近づけた。
「俺だって本当は、陽菜美ちゃんとこれっきりにしたくないんだ。わかってよ」
急に顔を寄せ、耳元でささやく貴志に、陽菜美は自分の勢いが一瞬ひるむのがわかる。
――悔しい……。
この男は自分がこう言えば、陽菜美が恨み言なんて言わなくなると知っているのだ。
するとうつむく陽菜美の耳に、「きゃあ♡」という悲鳴にも似た歓声が聞こえてくる。
どうもその声は、フロアの入り口辺りにできた、人だかりから聞こえているようだ。
ぼんやりと視線を上げた陽菜美は、女性社員が取り囲む中の、ひと際背の高い男性を見て息を止める。
――え? なんで……?
これは夢だろうかと、陽菜美はもう一度目をこらして見た。
「……蒼生……さん?」
陽菜美の唇がかすかに震える。
あの日偶然に出会い、きっともう二度と会わないだろうと思っていた人が、今静かにこちらに向かって歩いて来るではないか。