キスはボルドーに染めて
「結城君、この方はOTOWA(オトワ)ホールディングスの……」

 課長が陽菜美を振り返った時、蒼生が軽く手を上げた。

「いや、今はOTOWine(オトワイン)の企画室長です」

「あ、そ、そうでしたね。この方はワイン販売サイトOTOWine(オトワイン)株式会社の経営企画室長、音羽蒼生さんだよ」

 課長の声に、陽菜美ははっと我に返ると、慌てて頭を下げる。

 そっと姿勢を正し、上目遣いで見上げると、蒼生はにっこりとほほ笑んでいた。


「誰ですか!? あのイケメン!」

 わらわらと集まった人だかりの中から、どうも慌ててフロアに戻って来たらしき、沙紀の声が聞こえた。

 「こら」とたしなめる声に混じって、きゃあきゃあと騒ぐ女性社員の声は次第に大きくなる。


「あ、あの……」

 どうしていいのかわからず、小さく口を開いた陽菜美の前で、蒼生がチラッと貴志を見た。

 先程までとは打って変わって鋭くなった瞳に、貴志がピッと背筋を正す。

「結城さん。ひとつ聞きたいのですが……彼ですか?」

「え?」

 陽菜美は訳がわからず小さく首を傾げる。
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