キスはボルドーに染めて
「ボルドーで君に出会ったのは偶然だが、今日ここで君に再会したのは偶然じゃない」

「偶然じゃ……ない?」

 陽菜美は驚いて目を丸くする。

 偶然じゃないのなら、蒼生は陽菜美がここで働いていると知っていて、報告会に来たというのだろうか。

 訳がわからない様子の陽菜美に、蒼生はくすりと肩を揺らすと助手席の扉をそっと開いた。


「俺は今日、君に会うためにここに来たんだよ。さっき言っただろう? 君の知識と対応力を評価していると」

 蒼生はそう言うと、陽菜美に助手席に乗るように手を出す。

「でもそれは、私が前を向けるために、わざと言ってくれたんじゃ……?」

 陽菜美は戸惑いながらも、促されるまま助手席のシートに座った。


 ――どういうこと? 蒼生さんは、どうして私がここで働いていることを知っていたの?


 首を傾げる陽菜美の隣で、バタンと音を立てて扉が閉じられる。

 蒼生は運転席に乗り込むと、慣れた手つきでシートベルトを着けエンジンをかけた。
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